インボイス制度が始まり、「取引先が適格請求書発行事業者かどうか、確認する義務はあるの?」という疑問を持つ事業者は多いです。
結論から言えば、法律上の「確認義務」は明文化されていません。ただし、仕入税額控除を受けるには適格請求書(インボイス)の保存が必要であり、実務上は取引先の登録状況を確認しておかないと損をする可能性があります。

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法律上の確認義務はない
インボイス制度を定める消費税法には、「取引先の登録状況を確認しなければならない」という義務規定は存在しません。つまり、法律の条文として「確認義務」が課されているわけではありません。
ただし、消費税法は仕入税額控除の適用条件として「適格請求書の保存」を求めています。適格請求書でない書類を保存しても仕入税額控除は受けられないため、実質的に「確認しないと控除できない」という構造になっています。
確認しないとどうなるか
仕入税額控除が受けられないリスク
取引先が適格請求書発行事業者でない場合、その取引先から受け取った請求書は適格請求書に該当しません。この場合、原則として仕入税額控除を受けることができません。
経過措置の期間中は一定割合の控除が認められていますが、この割合は段階的に縮小されます。
経過措置の控除割合
- 令和5年10月1日から令和8年9月30日:仕入税額相当額の80%を控除可能
- 令和8年10月1日から令和11年9月30日:仕入税額相当額の50%を控除可能
- 令和11年10月1日以降:経過措置なし(控除不可)
つまり、記事執筆時点では80%の控除が受けられますが、令和8年10月以降は50%に減少します。経過措置の終了後は、免税事業者からの仕入れは控除対象外となります。


税務調査で指摘されるリスク
税務調査において、保存している請求書が適格請求書の要件を満たしているかどうかは確認のポイントになります。登録番号が無効な請求書や、そもそも登録番号の記載がない請求書で仕入税額控除を行っていた場合、控除の否認と追徴課税につながる可能性があります。
実務で取引先を確認する方法
新規取引先との契約時に確認する
新たに取引を開始する際、以下の情報を確認しておきましょう。
- 適格請求書発行事業者として登録しているかどうか
- 登録番号
- 登録がない場合、今後登録する予定はあるか
契約書や取引条件の確認書に、登録番号の欄を設けておくのも有効です。
既存取引先の登録状況を定期的に確認する
国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」(https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/)で、取引先の登録番号を検索して有効性を確認できます。年に1回程度は棚卸しをして、登録取消や失効がないかをチェックしましょう。
請求書の受領時にチェックする
受け取った請求書に以下の記載があるか、受領時に確認する習慣をつけましょう。
適格請求書(インボイス)の必須記載事項
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称
- 登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目がある場合はその旨)
- 税率ごとに区分した対価の額及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
免税事業者との取引をどうするか
取引先が免税事業者(インボイス未登録)の場合、以下の選択肢があります。
選択肢1:取引を継続する
経過措置の期間中は一定割合の控除が受けられるため、すぐに取引を中止する必要はありません。ただし、経過措置の縮小に伴い、自社の消費税負担は増えることになります。
選択肢2:価格交渉を行う
仕入税額控除ができない分を、取引価格に反映させる交渉を行うケースです。ただし、消費税相当額の全額を一方的に値引きするのは、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に該当する可能性があるので注意が必要です。公正取引委員会もこの点について注意喚起を行っています。
選択肢3:登録を働きかける
取引先に対し、インボイス登録を検討するよう情報提供や働きかけを行うケースです。ただし、登録するかどうかは取引先の判断であり、強制はできません。


よくある質問(Q&A)
Q. 免税事業者との取引を打ち切ることは問題ある?
インボイス登録の有無だけを理由に取引を一方的に打ち切ることは、独占禁止法や下請法の観点から問題になる可能性があります。取引条件の見直しや代替手段の検討を含め、合理的な判断プロセスを経ることが重要です。
Q. 取引先に登録番号を聞くのは失礼?
失礼ではありません。インボイス制度の下では、登録番号の確認はビジネス上の標準的な手続きです。「経理処理のために確認させていただきたい」と伝えれば、通常はスムーズに対応してもらえます。
Q. 個人の取引先が登録しているか公表サイトで確認できる?
個人事業主の場合も、登録番号がわかれば公表サイトで検索可能です。ただし、公表される情報は氏名と登録年月日のみで、住所は公表されません。登録番号がわからない場合は、直接本人に確認する必要があります。
Q. 経過措置の適用を受けるには何か手続きが必要?
経過措置を受けるための特別な届出は不要です。ただし、帳簿に「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を記載する必要があります。具体的には、帳簿の摘要欄に「80%控除対象」などと記載しておけばよいでしょう。


確認作業を効率化するためのツール活用
会計ソフトのインボイス対応機能
freee・マネーフォワード・弥生などの主要な会計ソフトには、インボイス制度対応の機能が搭載されています。取引先マスターに登録番号を記録しておけば、請求書の作成時や受領時に自動的にチェックしてくれる機能もあります。手動で毎回公表サイトを確認する手間が省けるので、積極的に活用しましょう。
取引先への通知テンプレート
取引先に登録番号を確認する際は、以下のようなメールを送ると丁寧でスムーズです。
確認メールの例文
件名:インボイス制度に関する登録番号のご確認のお願い
いつもお世話になっております。インボイス制度に基づく経理処理のため、貴社(貴殿)の適格請求書発行事業者の登録番号をご教示いただけますでしょうか。ご多忙のところ恐れ入りますが、ご確認のほどよろしくお願いいたします。
下請法・独占禁止法との関係
インボイス制度を理由とした取引条件の変更には、法律上の制約があります。特に注意すべき点を整理しておきましょう。
やってはいけないこと
- 免税事業者であることを理由に、消費税相当額の全額を一方的に減額する
- インボイス登録をしないなら取引を停止すると一方的に通告する
- 登録しない取引先に対して、合理的な理由なく不利な取引条件を押し付ける
これらの行為は、公正取引委員会が公表している「インボイス制度の実施に関連した注意事例」に該当する可能性があります。取引条件の変更を行う場合は、双方で十分な協議を行い、合理的な根拠に基づいて合意することが重要です。公正取引委員会への相談窓口(公正取引委員会)も活用しましょう。
確認した結果を残しておくために
確認作業でいちばん困るのは、「この取引先、前に調べたはずだけどいつだったか」という状態です。会計ソフトの取引先マスターが基本になりますが、取引先が数社程度なら、登録番号と確認日を書き込める紙の取引先台帳を1冊持っておくやり方もあります。請求書を見ながらその場で書き込めるので、確認を後回しにしにくくなります。
紙で受け取った請求書そのものも、確認済みかどうかで分けて立てておくと管理しやすいです。A4サイズが入るファイルボックスを机の脇に置いておくだけでも、机上に請求書が積み上がる状態は避けられます。
まとめ
インボイス制度において、取引先の登録状況を確認する法律上の「義務」は明文化されていません。しかし、仕入税額控除を適切に受けるためには、取引先が適格請求書発行事業者であるかどうかの確認は実務上欠かせません。
新規取引時の確認、既存取引先の定期チェック、請求書受領時の記載事項確認を習慣づけることで、控除の否認リスクを防ぐことができます。免税事業者との取引については、経過措置の動向を踏まえながら、公正な取引条件の下で対応を検討しましょう。
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